リアリティ
外が騒々しい。
近所の赤ん坊がずっと泣いている。昨日の夜もこの時間に泣いていた。
原付バイクが改造音をまき散らしながら通り過ぎる。
ガラの悪い言葉遣いの母親。
声変わりしてへんのちゃう?と思わせるような甲高い声の男子が異常なテンションで喋り続けている。
どこかの家のおじさんがお風呂に入っている音。鼻をチ~ンとかむ音がお風呂場に響いている。
もしかして虐待?
異常にハイテンション、ちょっとおかしいんちゃうん?
うるさい原付、近所の悪ガキか?
おじさん、風呂桶の音、響き渡ってるで。
あたしは外が気になるけど、なぜか窓の外を見る気にはなれない。
そんなことをいちいち気にしている自分が神経質に思えたから。
最近、ちょっとナーバスになっているということを認めるのが嫌だった。
でも、落ち着かない。どこの家なのか、どんな人なのか、気になる。
「家政婦は見た」の心境だ。
誰かがあたしを試そうとしているのかもしれない。
「こいつは外のことが気になって気になって仕方がなくて、そのうち窓の外覗きよるぞ」って、誰かが企んでいるのかもしれない。
そのうち、雨が降り出した。雨粒が薄い屋根を強く打ち付ける。
遠くで雷がゴロゴロ鳴っている。
相変わらず赤ん坊は泣き叫び、若い母親はそのうちヒステリックに笑いだした。
異常にハイテンションの男子学生はまだ誰かに向かって喋り続けている。
あたしは我慢できずとうとうカーテンを開け、窓を開けて外を見る。
雨は降っていない。
赤ん坊の泣き声は聞こえない。
ヒステリックでハイテンションの声も聞こえない。
そこにはいつもの長屋の呑気な夜の景色が見えるだけだった。
外灯に照らし出された狭い路地を時々人が通りかかる。
遠くで車の往来が聞こえるくらいで、他には何も聞こえない。
隣の住人の話し声さえも聞こえない。
あたしは気づく。あの喧騒は始めからなかったのだ。
それはただの「音」だったのだ。
癇に障る学生の声も、泣きやまない赤ん坊の声もあたしが作り上げた「音」だったのだ。
「試されている」と思った。
自分の外側で起きる出来事は全て、自分が作り上げたレプリカ。
内側にあるものが表面化したもの。スクリーンに映る映像。
その架空の世界を楽しめている?
映画を見るように楽しんでいる?
あなたはどう?
といった具合に問いかけられている。
「世界は自分を映す鏡」とはよく言ったものだ。
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