不発弾

高校生の頃読んだ本の中に「人は出会いのみで成長します。出会いなくして人は成長しません」とあった。あたしはその言葉を紙に書き、壁に貼って毎日目にしていた。記憶は定かではないけれどその言葉に反応したのは、当時、その言葉が腑に落ちる出来事があったのか、家族や友達、先生との関係性に悩んでいたのか、そんなところだと思う。


そして、十数年後、フランス好きが高じて1年足らず南仏に滞在した。滞在先を決める時、エクサンプロヴァンスにするかモンペリエにするか迷った。最終的にエクスを選んだのは語学学校への入学手続きがモンペリエより簡単だったからだと思う。南仏の光と青い空があればどちらでもよかったのだ。

フランス行きの飛行機の中で、大学教授と名乗る男性とパリのソルボンヌに語学留学する女性に出会った。12時間のフライトの後、ドゴールに着き、パリ市内まで一緒にタクシーに乗り合わせ、カフェで一杯飲みましょうとなった。あたしはパリの雑踏や耳に心地よいフランス語のおしゃべりを聞きながら「ああ、パリにいるんだ!!」としみじみ感じ入り、道行く人たちを眺めていた。

美しいパリジャンが二人仲良さそうに歩いていく。

「あの人たち、恋人同士かな~?」とあたしが言うと、大学教授が

「ああ、君、わかる?そういうことに気づいてしまうんだ。マレの方に行くと、そういう人いっぱい歩いているよ。気をつけた方がいいね」と言った。一体何に気をつけろというのか。あたしは気をつけるどころか、そういう匂いを嗅ぎわける自分の感性を存分に働かせてフランスの滞在を楽しもうと思った。


エクスの滞在はそれなりに楽しかったけれど、慣れてくると次第にあたしは焦り始めていた。いつまで経っても上達しないフランス語、つるむ日本人、分かっているけれど楽な方、楽な方を選んでしまう自分。学校が終わったらどうするか、考え始めていた。


と、そんな時に阪神淡路大震災。震災から数カ月後、壊滅状態の神戸から友達が避難してくるようにやってきた。授業も終わり、かつてから、行きたいねと言っていたアンティル諸島に旅立つ。

南の島で、青い海と太陽、咲き誇る花々、ラム酒と夜な夜な流れるズーク、それに付随するいろいろなことを満喫したあたしは、パリに戻った時、日本に帰るチケットを予約していた。その時の胸苦しさは今でも生々しく思い出すことができる。


「世界」の出来事は、全自動洗濯機だ、と考えている。

電源を入れてスタートボタンを押せば、あとは勝手に洗濯機がやってくれる。全てはプログラミングされている。


フランスに行ったことも、何一つ掴めないまま帰ってきてしまったことも、成るべくして成ったことなのだ。

そして、二十数年前に抱えた『エネルギー爆弾』は不発弾となって、今なおあたしの中で息を潜めている。

不発弾―何らかの不具合があって爆発せずにある爆弾。

帰国後、あたしは危うくこのプログラミングされた『エネルギー爆弾』を自分でカスタマイズして、大切な人や自分自身を傷つける『負のエネルギー爆弾』にしてしまうところだった。全自動プログラムは下手にいじると誤作動を起こす。

危ういところをなんとか脱することができたのも、これまた、プログラミングされた出会いのおかげだ。

不発弾を抱えたまま、いたずらに時間だけが過ぎたわけではない。あたしたちはそれなりに大人になり、分別をもち、自分を客観的に観る智慧もついた。

然るべき時に、適した場所で、適したやり方で不発弾に点火すること、それがこれまでの自分に対する“落とし前”のつけ方なのかもしれない。

全ては決められたこと。それを余すことなく享受して楽しもう。

面白きかな、人生は。


気まぐれ往復書簡  To Mio

神戸のマインドフルネス・ヨーガ   ヨガ処 つきよみひよみ

朝、陽が昇り一日が始まる。 夜、陽が落ち月が空に顕れ一日が終わる。 つきよみひよみでは誰でも、気軽に、生活の中に取り入れられるヨーガを実践し、心と体のセルフケアを提案しています。 まずは、体を動かして呼吸を感じてみませんか?